今回、韓国で感染が広がっているMERS(中東呼吸器症候群)。
致死率が高いといいますから広がりが大変心配でした。
韓国からの投資が多いベトナムでは、交流も多く、対岸の火事ともいっていられないからです。
ニュースで終息段階に入っていると見込まれているという報道に若干ほっとしています。
引き続き今後の展開は、注視していこうと思います。
ところで2003年、新型肺炎と言われた世界的なSARS(重症急性呼吸器症候群)流行のとき、パンデミック(世界流行)を直前で抑えることができたのは、カルロ・ウルバニ(Carlo Urbani)というイタリア人医師がハノイにいたおかげだったということをご存知でしたか?
当時、彼がSARSウイルスと戦った主戦場が、ここベトナム・ハノイでした。
この人がいなかったら、今頃、家族とともにハノイでの生活、という選択肢はなかったかもしれません。
当時、ハノイにいた友人は、外国人旅行者がいなくなり街も外出する人が少なく、ひっそりとしていたといいます。
では、そのウルバニはいったいどの様にパンデミックの危機を食い止めたのでしょうか?
中国からやってきたSARSウイルス
2003年2月下旬、あるアメリカ人ビジネスマンが、中国からシンガポールへ向かう機上で肺炎に似た症状を引き起こします。
インフルエンザが疑われたため、飛行機は途中、ベトナムのハノイに着陸。ハノイのフレンチホスピタルへ運ばれますが、まもなくこの旅行者は亡くなります。
その後、彼の処置にあたった医師や看護師がつぎつぎと同じ症状を訴えだします。何人かがつづけて亡くなりました。
そのフレンチホスピタルでWHOからの委託をうけて、寄生虫症候群の研究をしていた医師、カルロ・ウルバニ。
専門が伝染病の研究の彼は、この感染者たちの治療にあたるなかでいち早く新型ウイルスの可能性があることに気づいたといいます。
すぐにWHOとベトナム政府に報告し、ハノイでは適切な病棟隔離対策と旅行者検閲を実現。
WHOは彼の報告をうけ、2003年3月12日、世界規模の警報を発信。
その後4ヶ月ほどののち、流行と収束を経て、2003年7月5日にWHOは最後の警報を解除します。
その流行の間に世界中で総勢8273人の方が罹患、775人もの方がなくなったそうです。
SARSにかかった人のうち、10%近くの方がなくなったという恐ろしい伝染病でした。
通常のインフルエンザが0.03%の死亡率、1918-19年のスペインインフルエンザ大流行のときが3%とのことですから、その脅威がわかります。
新ウイルスの疑いを発見後、迅速にWHOと連絡をとったり政府に適切な対応をとるように働きかけたといいます。
また、症状を観察し、WHOに随時報告したおかげで、WHOが適切な世界規模の対応ができたそうです。
さすが、伝染病の専門医。
その知識が新ウイルスの発見、そしてすばらしい感染予防対策に役立ったことがわかるエピソードです。
対応の中で亡くなったウルバニ
ウルバニは、3月11日、彼がベトナムで従事していた小児寄生虫感染症についての研究報告のため、タイ・バンコクへ向かう機上で、自分自身もSARSを発症。
飛行場に到着したのち、同僚が救急車を緊急手配。
全員が防護服を着用した救急車が空港に到着したのは、その90分後でした。
その間、ウルバニの2.4m(8フィート)以内に人は近づかなかったそうです。
バンコクの病院では完全隔離。
奥さんも、インターホンでしか話せず、意識のあるうちは一度しかあえなかったそう。
人工呼吸器を入れてから、どんどんと肺機能が弱まっていったそうです。
意識のあるうちに、彼は牧師を呼び、最後の儀式。彼の希望で、肺組織も研究のために提供されたそうです。
患者の対応にあたっているとき、ある日、奥さんとの間で家庭内討論があったそうです。
ウルバニには3人の子供がいます。
奥さんは子供を守るために、そのような危険のある患者に対応するのは父親としての責任ある行動ではないと主張したそう。
それに対して、ウルバニは「この状況に対応できないとしたら、僕はなんのためにここにいるんだい?eメールを書いたり、カクテルパーティにでたり、くだらない事務処理をしろっていうのかい?」と答えたそうです。
そんな気骨ある医師、カルロ・ウルバニは3月29日午前11時45分、18日間の必死の治療もむなしくなくなりました。
46歳の若さだったそうです。
ハノイは大家族、高密度の都市です。
SARSが一度ひろがり始めると、食い止めるのは難しかったと思います。
最終的にはベトナムでは、63人しか罹患せず彼のおかげでたくさんの命が救われたことと思います。
感謝、感謝ですね。
SARSは重症急性呼吸器症候群の略称で、SARSウイルスというコロナウイルスからの新種のウイルスにより発症する怖い伝染病。
英語ではSARS coronavirus。
感染すると死亡率は10-15%という推計がでているそうです。
中国の広州付近でキクガシラコウモリが保菌していたものが人に移ったそうです。
ウイルス性のため、症状に抗生物質は効かないそう。
今も免疫の研究が進んでいるようです。
新型伝染病はベトナムのリスク
世の中にはまだまだしらない病気がひそんでいそうです。
ベトナムも、ジャングルに囲まれた熱帯です。未開の地が多く、いまだ知られていない病気があるかもしれません。
また、一時期世界的に騒がせた鳥インフルエンザも、ベトナムではまだ少数ですが患者が発見されることがあります。
他人事ではないですね。
SARS流行のとき、中国政府がWHOへの報告を遅らせたことで被害が大きくなったことについて謝罪しています。
その経験があったからか、その後の鳥インフルエンザ対応では、迅速に発表が進み、WHOとの連携が組めていたようです。
歴史に学ぶことができるのが、人間のすばらしいところ。
今回のMERSも無事、このまま終息することを祈っています。
〔カルロ・ウルバニ・イタリア財団について〕
1999年に国境なき医師団がノーベル平和賞を受賞した際、イタリアの同組織の代表として受賞団の一員でもあったカルロ・ウルバニ。
彼の意思をつぐ方々により、カルロ・ウルバニ・イタリア財団(AICU)が2003年7月に結成され、ベトナム、コンゴをはじめとした発展途上国で、彼の行ってきた人道的活動を継続しています。
特にウルバニは下痢でなくなる子供が多いことに着目し、寄生虫対策で子供の抵抗力を高める活動に積極的だったようです。
この財団の主な活動は、子供の寄生虫感染症対策。
HPの活動報告によれば、バクザン・バクニン両県では年二回の寄生虫駆除をこれまでに14万人の学童がうけたそうです。
またホイアン地域でも無料診療、医療補助の活動がはじまっているようです。
カルロ・ウルバニ・イタリア財団HP(イタリア語)
上記HPよりPaypalを使ってクレジットカードで寄付ができますので、是非、みなさまのご協力をよろしくお願いいたします。
これは、AICUのバナーです。
バナーやeメールでの財団についての周知も活動の一助となるそうです。